第31回 竜ヶ水からの桜島の思い出

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竜ヶ水からの桜島の思い出

鹿児島人の口癖のひとつに「鹿児島はいいところだけど灰さえ降らなければね」がある。かといって桜島のない鹿児島を想像することも困難だったりする。桜島は火山灰を降らす活火山。そのことを最近は特に実感できる日々が続いている。竜ヶ水から眺める桜島は美しい。でも、ここだって灰は風向きによっては降る。20年くらい前、どういうわけだか、コンロと鍋を携えて竜ヶ水駅まで列車で来て、駅前の海岸線で焼きそばを作ったことがある。なにが悲しくてそのようなことをしたかは忘れてしまったが、お徳用の焼きそば麺を大量に購入して、少々の豚肉と手でちぎったキャベツを混ぜながら焼きそばを楽しんだ。カセットコンロの火力が意外と強く、順調に焼きそばは仕上がっていく。炒めることに熱心になり過ぎて、海や桜島を眺めながらという余裕はないのがまだ年若い頃。いよいよできあがり、さあ食べようとするのだが完成した焼きそばに違和感がある。持参していないコショウがかかっているのだ。おかしいと思いつつも空腹であったし深く考えずに食べる。するとコショウの味ではなくじゃりっとした食感。焼きそばにふりかかっていたのは、コショウではなく火山灰だったのだ。そこでようやく海と桜島に目をやると、灰色の雲がこっちの方向に向かっていた。ということで、竜ヶ水における焼きそば大作戦は大失敗に終わった。竜ヶ水駅から桜島を眺めると、あの時のじゃり苦い出来事ばかり思い出してしまう。でもそのイメージは僕だけにしておいて、訪れた方々には駅と海と火山が重なる風景の妙を単純に楽しんでほしい。

 

文・東川隆太郎  スケッチ・浜地克徳